「事務所に飾る絵が欲しいから描いてくれる?」と夫に頼まれた。
「なるべく早く描いてね。引越しの日に持って行きたいから。」
簡単に言ってくれる。
事務所の引越しまでもう2週間くらいしかないのですが。
と心の中でつぶやいていた。
いや、口に出してたかな。
とはいえ、事務所に飾るとなると今までとは違う。
今まではただの自己満足で、うまく描けたら飾ろうかな。
と言う具合だったから。
「事務所に飾る絵なんて、どんな物がいいかなんてわからない。」
と言うと、オイルパステルを始めた頃に描いた絵を指して
「この絵で良いよ。好きだから」と夫は言う。
その絵は気に入っているけれど、さすがに人が見るクオリティではない。
だったらと、同じ絵を描き直す事にした。
描き直す事にしたその絵は、子供の頃に使っていたような硬いクレヨンで
画用紙の凹凸を埋めることができずに白い部分が目立っている。
どう描くのかもあまりわからず必死に描いた。
とにかく諦めないで最後まで描くと決めて。
わからないからこその努力がいい思い出と自分の知識になった。
思い入れの作品。
今度の絵は家族以外が近くで観るだろうから、これは頑張らねばと気合が入る。
家族以外がじっくり観る可能性があることが、今までとは違う。
ロジカルる考えるきっかけになった。
素材の写真はピンタレストで見つけた物だけど、
どの部分で切り取ると絵として美しいかまずは考えた。
そしてガイドラインを引き、なるべく正確に再現できるように下描き。
初めに色を乗せるときにはとても緊張した。
「人に観られる」という意識もあるけれど、私は夫の事を思って描いた。
休憩中、夫のために描いたこの絵を観て束の間の時間を味わって欲しい。とか
この絵が夫を見守って欲しい。
あるいは誰かにこの絵を褒めてもらったら、私ではなく、夫に喜んで欲しい。
そんな気持ちを込めて描いた。
夫を思いながら描いたこの絵は自分にとっても特別な絵になって嬉しい。